中国通史で辿る名言・故事探訪(車魚の嘆)
「車魚之嘆(しゃぎょのたん)」
◇ 戦国時代 ◇
「長鋏よ帰らんか」とも言う。
食客(居候)が、待遇の悪いのを改善してもらおうと態度で示しての嘆き。
一つ望が叶えば、また更にその上を望むことを謂う。
》 斉の孟嘗君(田文)余禄 《
斉では湣王が殺害された後、襄王が即位した。
その頃 孟嘗君は自邑の薛で独立して、諸侯の一人となっていたが、
斉の国都・臨淄に住んでいた。
孟嘗君は食客三千人を抱え、「名声諸侯に聞こゆ」と謂われたが、その
食客の中には風変わりな者も少なくなかった。
その内また一人、尾羽打ち枯らした風来坊が転がり込んできた。
其の名を馮讙(ふうかん)という。
※ 「戦国策 斉・閔王」では、馮諼(ふうけん)という。
馮讙は孟嘗君に見(まみ)えた。
孟嘗君曰く、
「先生は遠い所からお訪ねくださいましたが、何をか私に教えて下さるの
ですか」と。
馮讙は、
「君が士を好まれると聞き、貧しい身を君に寄せました」と。
孟嘗君は、とりあえず彼を一般用宿舎である<伝舎>に留めた。
十日が経ち、馮讙は剣(剣の柄)を叩きながら詠った。
「長鋏(ちょうきょう)よ帰らんか、食うに魚なし。」
☞ 長鋏とは、剣のこと。
(=剣よ帰ろうか。食膳には、魚が並んでいない。)
それを伝え聞いた孟嘗君は、彼を伝舎から食事に魚の付く中級宿舎の<
幸舎>に移した。
また五日経ち、馮讙は詠う。
「長鋏よ帰らんか、出づるに輿(こし。車)なし。」
孟嘗君は今度も、何も言わずに彼を上級宿舎の<代舎>に移し、
専用の車を与えた。
更に五日後、馮讙は詠った。
「長鋏よ帰らんか、以って家を為すなし。」
さすがに孟嘗君もむっとして、その願いを無視した。
それから一年が経ったが、その男は何一つ進言することも無かった。
孟嘗君はその多くの食客を養うためには、領地からの上りだけでは養い
かねるので、金融(金貸し)にも手を付けていたが、近頃はその貸付金が
焦げ付いていた。
そこで貸金の取立人として馮讙に白羽の矢を立てたが、馮讙と同じ食客
の推薦によるものであった。
》 小を捨てて大を採る馮讙 《
孟嘗君の宰邑・薛にやって来た馮讙は、金を借りた全員に出頭命令を
出し、先ずは取れる者から十万銭の利息を取り立てた。
そして次にその金で、酒を醸し肥牛を買った。
※ 当時の贅沢を表現する決まり文句である。
そして債務者全員を大宴会場に集め、その席で、利息を払えた者には
改めて返済期限を定め、払えなかった者に対しては、その証文をすべて
焼き払ってしまった。
その後に、全員で大酒宴となった。
その事を知った孟嘗君は、彼を急ぎ呼び戻して詰問した。
馮讙は対えて曰く、
「酒と肉は、債務者全員を集めるために必要でした。そして支払い能力
ある者には、支払期限を約束させましたが、能力の無い者から無理矢理
取り立てれば、夜逃げされるのが関の山です。
その結果、領主は利を貪り、領民は債務を守らぬとの風評が立ち、上下
ともに汚名を残すだけとなります。
有名無実の債権と引き換えに、領民にあなたの恩義を売りつけ、仁君の
名を高めてきましたが、何処か不都合でもございますか」と。
孟嘗君は、この処置にいたく感動した。
「史記 孟嘗君列伝」
◇ 戦国時代 ◇
「長鋏よ帰らんか」とも言う。
食客(居候)が、待遇の悪いのを改善してもらおうと態度で示しての嘆き。
一つ望が叶えば、また更にその上を望むことを謂う。
》 斉の孟嘗君(田文)余禄 《
斉では湣王が殺害された後、襄王が即位した。
その頃 孟嘗君は自邑の薛で独立して、諸侯の一人となっていたが、
斉の国都・臨淄に住んでいた。
孟嘗君は食客三千人を抱え、「名声諸侯に聞こゆ」と謂われたが、その
食客の中には風変わりな者も少なくなかった。
その内また一人、尾羽打ち枯らした風来坊が転がり込んできた。
其の名を馮讙(ふうかん)という。
※ 「戦国策 斉・閔王」では、馮諼(ふうけん)という。
馮讙は孟嘗君に見(まみ)えた。
孟嘗君曰く、
「先生は遠い所からお訪ねくださいましたが、何をか私に教えて下さるの
ですか」と。
馮讙は、
「君が士を好まれると聞き、貧しい身を君に寄せました」と。
孟嘗君は、とりあえず彼を一般用宿舎である<伝舎>に留めた。
十日が経ち、馮讙は剣(剣の柄)を叩きながら詠った。
「長鋏(ちょうきょう)よ帰らんか、食うに魚なし。」
☞ 長鋏とは、剣のこと。
(=剣よ帰ろうか。食膳には、魚が並んでいない。)
それを伝え聞いた孟嘗君は、彼を伝舎から食事に魚の付く中級宿舎の<
幸舎>に移した。
また五日経ち、馮讙は詠う。
「長鋏よ帰らんか、出づるに輿(こし。車)なし。」
孟嘗君は今度も、何も言わずに彼を上級宿舎の<代舎>に移し、
専用の車を与えた。
更に五日後、馮讙は詠った。
「長鋏よ帰らんか、以って家を為すなし。」
さすがに孟嘗君もむっとして、その願いを無視した。
それから一年が経ったが、その男は何一つ進言することも無かった。
孟嘗君はその多くの食客を養うためには、領地からの上りだけでは養い
かねるので、金融(金貸し)にも手を付けていたが、近頃はその貸付金が
焦げ付いていた。
そこで貸金の取立人として馮讙に白羽の矢を立てたが、馮讙と同じ食客
の推薦によるものであった。
》 小を捨てて大を採る馮讙 《
孟嘗君の宰邑・薛にやって来た馮讙は、金を借りた全員に出頭命令を
出し、先ずは取れる者から十万銭の利息を取り立てた。
そして次にその金で、酒を醸し肥牛を買った。
※ 当時の贅沢を表現する決まり文句である。
そして債務者全員を大宴会場に集め、その席で、利息を払えた者には
改めて返済期限を定め、払えなかった者に対しては、その証文をすべて
焼き払ってしまった。
その後に、全員で大酒宴となった。
その事を知った孟嘗君は、彼を急ぎ呼び戻して詰問した。
馮讙は対えて曰く、
「酒と肉は、債務者全員を集めるために必要でした。そして支払い能力
ある者には、支払期限を約束させましたが、能力の無い者から無理矢理
取り立てれば、夜逃げされるのが関の山です。
その結果、領主は利を貪り、領民は債務を守らぬとの風評が立ち、上下
ともに汚名を残すだけとなります。
有名無実の債権と引き換えに、領民にあなたの恩義を売りつけ、仁君の
名を高めてきましたが、何処か不都合でもございますか」と。
孟嘗君は、この処置にいたく感動した。
「史記 孟嘗君列伝」
テーマ : 慣用句・ことわざ・四字熟語辞典
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